裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「娘さん、のどがかわいたので、あなたのその手で水を汲んで飲ませてくれませんか」

あの日と同じ言葉が、直哉の口から聞こえて来た。
悪戯っ子のような瞳で蠱惑的に見つめられ、トクトクと心臓が早く動き出す。
そんな二人のやり取りを真哉は不思議そうに見ている。

自分自身の早くなった鼓動を聞きながら、柄杓で水を取り、手をよく漱いでお椀のように両手を合わせ水を灌ぐ。
水がいっぱいになった手のひらを少し屈んだ直哉の口元に運んだ。緊張した指の間からはポタポタと雫が落ちている。

彼のつむじが見える。あの日と同じようにオリエンタルノートがふわりと香り、指先に触れた彼の唇の熱を感じる。

水をコクンと飲み込んだ直哉が顔を上げ、爽やかに微笑む。

「ごちそうさま」

直哉が水で濡れた私の手をハンドタオルで拭い。そして、そのまま、左の薬指にダイヤモンドの指輪をゆっくりと嵌めていく。

私の左手の薬指にキラキラとダイヤが煌めいている。
そして、左手を持ったまま、直哉の唇が動く。

「この先、ずっと一緒にいてくれますか?」

「はい……。よろしくお願いします」

まさか、思い出のこの地で指輪をもらえるなんて思っていなかった。嬉しくて胸がいっぱいになり涙が浮かんでくる。

「ママー、なんでないているの?」

「……シンちゃん、嬉しいときも涙がでるの。ママはパパからきれいな指輪をもらってとっても嬉しかったの」
< 144 / 179 >

この作品をシェア

pagetop