裸足のシンデレラは御曹司を待っている
サンダルを履いた私をおばあと陽太が玄関まで出てきて見送ってくれている。

「おばあ、陽太、ありがとう。明後日、東京に行く前に真哉を連れて挨拶にくるね」

「シンちゃん、撫でぃとーちゅん(撫でておかないと)」

おばあが、目じりにしわを寄せアハハと笑う。

「遥香、ちょっといいか?」

「う、うん」

陽太が家の外に出て来た。玄関の引き戸を閉めれば、ふたりきり、そのシチュエーションに少し緊張する。
玄関の仄かな明かりが私たちを照らしていた。足元に影が落ちる。

「遥香……東京が辛かったらいつでも気兼ねしないで帰って来いよ。友達だっているんだし、おばあが言った通り、俺ら家族みたいなもんだろ……」

少し切なげな表情を浮かべた陽太。
陽太が望んだ形の家族には、なれなかった。それでも家族みたいだって言ってくれる。

「陽太、いつも助けてくれてありがとう。陽太がいなかったら真哉を育てるの大変だったと思う。甘えっぱなしでごめんね。陽太……ありがとう」

想いに応えられなくてごめんね。でも、一番身近な存在で頼りにしていた。
だから、”ごめんね” よりも ”ありがとう” をたくさん贈りたい。
泣かないようにギュッと目を瞑ってから、目を開き陽太をまっすぐ見て、もう一度言った。

「ありがとう陽太。真哉と一緒にまた来るね」

「ああ、またな」

陽太に手を振り、背を向けた。
涙が溢れないように見上げた空には今にも切れそうな細い三日月と満天の星が浮かんでいる。

きらきらと煌めく夜空の下、私は歩きだした。
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