裸足のシンデレラは御曹司を待っている
19時15分、居酒屋シマヌククルのドアの前で振り返った。地元の知り合いばかりが集まる店、本土から来た直哉には完全にアウェーだ。

「なんか、無理やりつき合わせちゃってごめんなさい」

「いや、地元のお店だなんて楽しみだよ」

直哉がフッと柔らく微笑むと、その横から声がする。

「ボクきたことあるよ」

自慢げな真哉は、我先にとお店のドアに手を掛け、ガラガラとドアを開けた。
お店の奥の座敷に腰を下ろそうとしていた陽太を見つけ駆け寄っていく。

「ようちゃんだー」

「シンちゃん、お店の中で走んないの」

私たちの声に気が付いた陽太が振り返る。サンダルとポンッと脱ぎ捨て、座敷に上がり込んだ真哉が陽太に飛びついた。

「ようちゃん!」

陽太は、目を細め真哉を抱き上げる。陽太のたくましい腕に抱かれた真哉は、満面の笑みを向けていた。

「シン、風呂入ってきたんだな」

「うん、シャンプーしたよ。なかなかったよ」

陽太と真哉、ふたりの様子を見ていると胸が痛い。
ちょっと、泣きそう。

陽太が真哉を抱いたままこちらに向き直り、直哉に軽く頭を下げた。
「急にお呼び立てしてすみません」

「いえ、お誘いいただきありがとうございます」

「陽太、連絡ありがとう。朝、SNS見てびっくりしちゃった」

私の言葉に陽太は困ったように眉尻を下げる。

「今日しかないだろ? まだ、ぜんぜん来てないけど、地元の奴らに声かけたからボチボチ来ると思うよ。みんなにだまって東京くなんてダメだろ」

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