裸足のシンデレラは御曹司を待っている

急な呼び出しで何を言われるか不安だったけれど、昨日、あの後、東京に行く私のために地元の友達に声を掛けてくれたんだ。

もしも、私が逆の立場だったとしたらとてもじゃないけど、自分を振った相手に対して、送り出すための企画なんて立てられない。

そう、思い当ると改めて陽太の優しさと懐の深さを感じた。
我慢していたのに、涙がジワリと湧いて来る。泣かないで”ありがとう”って言いたいのに、周りの景色が歪みだして頬を涙が伝った。

すると陽太がオロオロと焦り出す。
「だから、泣くなよ。昔っから遥香に泣かれると、どうしていいのか、わかんなくなるんだから……」

涙がとまらない私の背中に直哉がそっと手を当て、陽太に抱かれている真哉が手を伸ばす。

「ママ、どっかいたいの？」

「どこも痛くないよ。なんだか、胸がいっぱいになって……」

胸の奥から温かいような寂しような、色んな感情が湧きだして、それをうまく言葉に出来ない分だけ涙がこぼれた。

「そろそろ、他のメンバーも来るのにいつまでも泣いてんなよ」

「うん……」

「ママ、ごはんたべれる？」

「ごめんね。もう大丈夫だから、ご飯もちゃんと食べるよ」
そして、涙を拭い、陽太に向かって顔を上げる。

「ありがとう、陽太」

「ああ、もう泣くなよ。ほら、マスターも料理持って困っているし、早く座ろう」

振り返ると、顔なじみのマスターが、料理をだすタイミングを逃したまま、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべていた。

「マスター、ごめんなさい」

「いいって、今日は遥香ちゃんが主役なんだって⁉　彼氏、イケメンだねー。オジサンが口説いてもなびかないわけだ。わはは」

マスターに口説かれたことなんて、かつて一度もなかった。場の雰囲気を和ませようとしてくれているんだ。カウンター越しにいる奥さんも手を叩いて「あんたになびくわけないさー」とゲラゲラ笑っている。