裸足のシンデレラは御曹司を待っている
うちんなんちゅの飲み会は、乾杯の一杯目がビール、二杯目から泡盛が定番な事が多い。テーブルの上にドンッと一升瓶に入った泡盛が置かれた。
そして、手の中に収まる大きさの琉球グラスに泡盛を手酌で注いだ陽太がまた口を開く。

「遥香、東京の暮らしは大変だと思う。でも、俺ら仲間がいつでも待っているから心置きなく出戻って来きても大丈夫だ」

仲間内から「陽太、縁起でもねーぞー!」とか「そうだそうだ、いつでも帰って来い」とかヤジが飛んで笑いが起きる。

私としては、縁起でもないに一票だ!

「冗談は、さておき。柏木さん、東京で二人が心細い思いをしないよう……遥香とシンのこと大事にしてやってください。よろしくお願いします」

そう言ってから手元にある泡盛のグラスをグイッと煽り飲み干す。
直哉は、しっかりと陽太を見据え大きく頷いた。
周りからは、パチパチパチと拍手が沸き起り「いいぞー」と声が飛ぶ。

陽太からの熱いエールにまた泣きそう。でも、泣かないように笑顔で拍手を送った。
陽太はおどけたように片手を上げ、もう片方の手にある空になったグラスを隣の人に渡す。

陽太の隣に座っていたのは、陽太の同級生、私の後輩にあたる比嘉隆。地域の青年会のメンバーだ。こうして一人ひとりに杯が回り一言口上を述べては、お酒を飲み干すシステムだったりする。手酌で注ぐのは自分の飲める分量にしようという地域ルールなのだ。

「憧れの遥香先輩が東京に行ってしまうのは寂しいけれど、どうぞお幸せに!
オレも彼女作ってクリスマスはイルミネーション見に行きます」
と比嘉隆は語った。「がんばれー」「年末泣いてもしらねーぞ」と笑いと拍手が起こり、また次の人と、杯が回る。
そして、巡り巡って、直哉の所に杯が回ってきた。


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