裸足のシンデレラは御曹司を待っている
建物にたどり着き、木目のドアを開くと鮮やかな紅型のタペストリーが目に入る。
このタペストリーを取り付ける時に、どの高さが良いとか、右に曲がっているとか、遥香とワイワイ騒ぎながら壁に付けたのを思い出し、ツキンと胸が痛んだ。
でも、いつまでも引きずっているわけにもいかないよな。あいつは幸せになったんだから。
ふうーっと息を吐き、靴から室内スリッパに履き替えた。
「金城もコレに履き替えてな」
「うん、わかった。うわー、中から庭を見るのもいいね。プールがキラキラしてる。こんなに暑いと泳ぎたくなっちゃうよね」
「お客さんが入っていない時なら泳いでもいいよ」
「えっ?マジ⁉ やったー!」
バンザイしながら飛び跳ねる姿は、まるで幼稚園児、シンちゃんとリアクションが変わんない。
いや、ガキじゃないんだから、プールぐらいでそんなにはしゃぐなよ。お前、オレと同い年の27歳。
女の27歳っていったら、もう少し落ち着いてもいいんじゃね。色気もクソもありやしない。
「ただし、時間外だからな」
「はーい、上司には逆らいません」
クリクリと小動物のような瞳でオレを見上げる。
その表情は、昔の面影が残っていた。
そうそう、コイツ、黙っていれば可愛いんだけどな。
「ねえ、陽太クンも一緒に泳ごうよ。ひとりじゃ、さみしいじゃん」