裸足のシンデレラは御曹司を待っている

上目遣いにそんなことを言われて不覚にも一瞬ドキンとしてしまった。
クソッ、金城のくせに……。

「わかったよ」

「じゃ、一旦家に帰って水着取ってくるから」

そう言い残すと電光石火のごとく、城間別邸から飛び出し走り去って行く。

「おいっ!今じゃないだろ」

後ろ姿に呼びかけても、背中を向けたまま手を上げ、どんどん遠ざかる。
今日は、管理人の仕事の説明をするために来たはずなのに、ナニを考えているんだか。
一気に力が抜ける。リビングテラスのソファーにドッカリと腰を下ろし、煌めく水面のプールへと視線を移した。

プールのまわりを取り囲む月桃やハイビスカス、ブーゲンビリアなどの花々が鮮やかに咲き誇り、そよ風に身を泳がせている。
太陽の日差しに目を細め、眺めているとふと懐かしい記憶がよみがえってくる。

そういえば、付き合っている時もアイツの突拍子もない思いつきに振り回されていたな。
中坊だったから行動する範囲はたかが知れていたけど、夜学校に忍び込んだり、山ン中で肝試ししたり、結構楽しかった。

あれ?なんで別れたんだっけ?
記憶の糸を手繰ると思いあたった。

高校に進学するのに俺が寮に入って、だんだん連絡を来なくなって自然消滅したんだ。
中坊の頃の付き合いなんて、自分の目先の事で手一杯になると些細な事で切れてしまう。
そんなもんだと思いながら何だか胸の奥がモヤモヤする。

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