裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「子供の頃、父に連れられて買い物に行ったときに、おりこうにしていると最後にブルーシールのアイスクリームを買ってもらえるのが凄く楽しみで、その中でもマンゴーのシャーベットが好きでよく食べていたのを思い出しました」

「お父さんと仲がいいんだね」

「はい、大好きな父でしたが、2年前に他界してしまって……」

「身内が亡くなるのは寂しいね。うちは仲が悪くはないけど、良いわけでもないから……。素敵な思い出があってうらやましいよ」

「柏木さん、独身でいらっしゃいますか?」

直哉は少し驚いた顔で「ああ」とだけ短く答えた。
私なんかに、いきなり独身ですかなんて聞かれたら警戒されちゃったかな?
ただ、鍾乳洞での泡盛のラベルが名前だけなんて寂しかったから明るい未来を想像して欲しかった。

「それでしたら、この先ご結婚されて、お子さんが出来たら、アイスクリームをごちそうしてあげるお父さんになればいいんですよ。そしたら、子供がお父さん大好きって言ってくれますよ。素敵な思い出をこれから作っていけばいいんです」

「それは、素敵だね。では、それをこれからの目標にしよう」

そう言って、直哉が甘やかに微笑んだ。破壊力バツグンの微笑みに胸のキュッと熱くなる。
心にブレーキを掛けるように仕事の事を口にした。

「明日の朝食は9時頃でよろしいでしょうか?」

「安里さん、さっきも言ったよね。しゃべり方が固いよ」

危ない一線を乗り越えないための、お客様との距離を自覚するための敬語なのに……。

「はい、すみ……。ごめんなさい」

「ん、のんびりするために来ているから、あまり固く苦しくない方がリラックスできるんだ。協力してくれる?」

ほら、ズルい。優しく言うのに逆らえない。




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