裸足のシンデレラは御曹司を待っている
うー。お客様なんだからガマン、ガマン。

「沖縄でみられる赤瓦の木造平屋住宅は、親戚の家に遊びに来たような郷愁を感じさせるのかもしれません」

作り笑顔が張り付いたまま会話をして、やっと玄関に到着する。外壁部分が全面ガラス張りの家の中で唯一、玄関は木製の建具が使用されている。扉を開くと真っ白な内壁に下げられた色鮮やかな紅型のタペストリーが出迎えてくれる。
段差のない広めの玄関だが、室内履きに履き替えてもらうシステムだ。

「どうぞ、こちらのスリッパをご使用ください」

「……悪いけど、椅子持って来てくれるかな? ちょっと、足を痛めてね」

「は、はい。少々、お待ちください」
慌ててリビングからチェストを運び、壁際に設置した。
壁に手をつき、その椅子に座った直哉を複雑な思いで見つめる。

椅子に座らないと靴も脱げないなんて……。
私の知らない5年の間に何があったの?
と訊ねたくなるのに、『はじめまして』と言われた後では、それも出来ない。

結局のところ、5年前も今も、彼について私は何一つ知らないんだ。

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