裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「あ、すみません。お砂糖とミルクを出しするのを忘れておりました。すぐにお持ちいたします」
腰を浮かしかけたところで直哉が片手を上げ静止を促す。
「いや、俺はブラックで」
あー、しくじった。無意識に直哉のコーヒーをブラックで出してしまった。
直哉を伺い見れば、何事もなかったかのように窓の外を見ながらコーヒーを飲んでいる。
その様子に安心するのと腹立たしいのと二つの感情が、グルグルと心の中で渦巻く。
直哉がコーヒーカップをソーサーに戻し、その横に一通の封筒をテーブルの上に置いた。
それは、5年前に泡盛を預けた酒造会社からのものだった。
ドクンッと心臓が大きく跳ねた。
「ここの場所に行きたいんだ」
「……はい」
「パンフレットに載っている通り、階段があるみたいで大丈夫だとは思うけど一緒に行ってくれると助かるんだ」
「はい、かしこまりました」
動揺を隠すように抑揚のないロボットのような返事しか出来ない。
やっぱり、あの時のお酒を取りにきたんだ。
それなのになんで知らない振りをしているの?
今にも叫びだして、問い詰めたい衝動に駆られる。