裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「すみません。びっくりしてしまって……」

直哉との近い距離、ふわりとオリエンタルノートが香る。
切れ長の二重の目、昔と変わらない綺麗な虹彩を見つめ、切ない思いになった。

「ん、ごめん。おかしな話に付き合わせてしまったね」

直哉の言葉に首を横に振った。

係の人に声を掛けると預けた瓶の場所まで案内してくれる。周りの瓶に掛かったカードには、それぞれ思い思いのメッセージが書かれているのに、直哉のだけはシンプルに名前だけだ。

「このカードを書いた時の気持ちが思い出せ無くて残念でしたね」

「そうだな。せっかく何か思い出せると思って来たのに……痛っ」

顔をしかめ、手を頭に当てた直哉の様子に慌てて声をかけた。

「どうなさいましたか、大丈夫ですか?」

「もう、大丈夫だ。これも事故の後遺症でね。時々、頭痛がするんだ」

「大変な事故に遭われたんですね」

「実は、事故に遭ったことも覚えていなくて。事故自体は単独事故だったらしいから被害者がいなくてよかったんだけどね。1人で立って歩けるようになるまで、1年以上掛ったよ。ただ、事故前の数週間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったままで、何か大切な事を忘れてしまっている気がしてならないんだ」

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