裸足のシンデレラは御曹司を待っている
覗き込むように言われ、その瞳と視線が絡む。きれいな虹彩の瞳から視線を外したくて、思わず俯いてしまった。
その虹彩に囚われたままだと、本当の事を言ってしまいそうで怖かったから。

「いや、困らせるつもりじゃなかったんだ。ただ、安里さんがいつも悲しそうなのが気に掛かって……」

「……私は大丈夫です。それよりマンゴーが温まらないうちに食べましょう」

ごまかすように声を掛け直哉の手を引き、東屋まで歩き出した。
無意識に繋いでしまった節のある大きな手から伝わる熱を感じてしまうと、どうしたって、胸の奥がざわつきが抑えられない。
隅に追いやっていた甘い記憶と彼への思いが芽を出し始め、気が付けば気持ちが引き戻されている。

東屋にたどり着き、石作りのベンチに向かい合わせに座わった。
テーブルの上にマンゴーのパックを並べると、一口サイズにカットされたトロトロに熟れたマンゴーが、パックいっぱいに入っていて蓋を開けば、甘い芳香が広がる。
付いてた爪楊枝を刺し、「いただきます」と口に入れる。
すると、口の中は濃厚な味わいに満たされる。

「この味でこのお値段は、地元ならではですよね」

「マンゴーの味が濃くて旨いな」

「美味しいですよね。マンゴー好きなんです」

ふと前にも同じような会話をしたなと思った。

「痛っ……」

直哉が顔をしかめ、こめかみを抑え込んだ。
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