裸足のシンデレラは御曹司を待っている
薄明りに照らされた幻想的な鍾乳洞の中、1万3000本もの泡盛に思い思いのラベルが張られ熟成の時を待っている。

「柏木様はラベルにどんなメッセージを入れますか?」

その言葉の答えに詰まる。

「5年後へのメッセージか……。想像もつかないな。穏やかに暮らせて美味しい食事と美味しいお酒があればいいかな」

目の前にいる彼女に心惹かれていても、まだ出会ったばかり、自分には温かい家庭とかも想像でない。きっと、この旅が終わったらまた仕事漬けの日々を送るのだろう。

「酒造会社から泡盛の通知が5年後に御自宅に届くそうです」

という彼女の言葉を聞きながら、5年後一緒に受け取りに来れたらいいな。と思った。

そのためには、何としても滞在中に近い存在になって、出来れば、穏やかな瞳の彼女とこの先ずっと一緒に過ごせたらいい。

自分でもヤバイ奴だなと、思うぐらいの妄想が頭の中で繰り広げられている。
それでも、恋の病を止められず、邪な思いを秘めつつ、アプローチを繰り返す。

車に戻り、ドライブを続ける。行きは高速道路を使ったが帰りは一般道で、沖縄の東海岸を北上していく。
時折、車窓から見えるコバルトブルーの海がきらめいていた。

「この辺りは観光地化がされていないから静かでいい」

「そうですね。途中にあるビーチは人がいなくて、プライベートビーチ感覚で楽しめることもよくあるんです」

「じゃあ、少し散歩してもいい?」

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