裸足のシンデレラは御曹司を待っている
手書きでビーチとだけ書かれた素朴な看板に惹かれ、ハンドルを切る。
たどり着いたのは、誰もいない静かな海岸。

芝生が敷かれた休憩スペースには東屋もある。そして何よりその先にある白い砂浜と青い海が貸し切りだ。

「ここの砂浜は潮が引くと1キロほども歩いて行ける遠浅の浜で、シュノーケリングやダイビングではクマノミなども見れるらしいです」

その言葉に頷く。カレンダーや絵葉書で見るような光景が貸し切りだなんて最高の気分。
手を高く伸ばし、大きく息を吸い込んだ。

「やっぱり沖縄の海はいいなぁ。海の青さも透明度も違う。ましてや、貸し切りの海なんて贅沢極まりない。宿から水着を持ってこなかったのは失敗だったね」

観光客としては、一般論を言ったつもりだったのに遥香がびっくりした顔を見せる。

「日中、泳いでいるのは観光客だけですよ。地元の人は日焼けの恐ろしさを知っていますから夕方にしか泳ぎません。それに私は水着になんてなりませんよ」

"水着になんてなりません"とか宣言された。
アプローチしすぎて警戒させてしまったのか、逆毛を立てた子猫のようだ。
そんな、彼女も可愛らしく思えてしまう。会ったばかりなのに重症だな。
そんな自分がおかしくなりプッと吹き出してしまう。

「残念、安里さんの水着姿見れないんだ」

俺の言葉にアワアワしている様子が可愛くて、もう少し困らせたくなった。

「今日は、水着の代わりに裸足になってもらおうかな？　潮の引いた砂浜に足跡をつけたいんだ」

そんな提案に彼女は瞳を丸くする。

「えっ⁉　私もですか？」
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