裸足のシンデレラは御曹司を待っている
彼女を「遥香」と呼ぶ男性の声、子供の声、5年という月日は、その人の暮らしを変えるには十分な時間が流れていたのだろう。

やっと、記憶の扉が開き彼女といた時間を思い出した。
それなのに5年の間に彼女にも時が流がれ、自分とはかけ離れた、暮らしが出来上がっていた。

何を伝えればいいのか、考えがまとまらない。

ドアが開き、年配の男性医師が入って来る。血圧や問診を受けている間もどこか上の空でやっと答える。
診察が終わった頃、遥香が入れ違いに部屋に入って来た。

記憶が戻ったと告げて良いか。迷いが生じる。
今さら、迎えに来れなかったことを謝罪しても彼女を困らせるだけではないだろうか?
今、彼女が幸せならば何も言わない方が良いのではないか?

「あの、こんなむさくるしい所に運んでしまって、すみません。別邸の方だと駐車場から部屋まで距離があるので、車から動かすのが難しくて……」

「いや、俺の方こそすっかり迷惑をかけてしまって悪かった。宿の方に帰るよ」

「……あの、ちらかっておりますが、こちらからどうぞ」

遥香が緊張した表情でガラガラと隣の部屋に繋がる引き戸を開けた。

その部屋のTVの前に座っていた男の子がパッと顔を向ける。

「ママ、おじさんおきたの?」

「うん、もう帰るんだって……」

その男の子の容姿に目を奪われる。
まるで、子供の頃の自分がそこにいるのかと錯覚してしまうぐらいに、そっくりだった。
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