裸足のシンデレラは御曹司を待っている
やっとほぐれていた彼女の表情もここに到着した時のように作り笑顔が張り付いたものになっている。
家庭を守らなけばという、意識が働いているのだろう。
そんな、顔を見ると記憶が戻ったと言う決心がにぶりそうだ。
「お部屋まで、お送りします」
「いや、小さな子供を部屋に残していくのはよくない。一人で大丈夫だよ」
「これ、お車の鍵です。お車は駐車場へ、お買い物をされていた物はキッチンに運んであります」
あくまでもお客様として扱われている事に寂しく思いながら、彼女の手から鍵を受け取った。かすかに触れた手の温もりを追いかけてしまいたくなる。
「ありがとう……明日、少し時間を作ってくれるかな?」
「朝食後でもよろしいでしょうか? あの、具合が悪くなったらいつでも呼んでください」
「ありがとう。おやすみ」
背を向けて別邸に向かう、その背中に「おやすみなさい」という声が追いかけてくる。
後ろ髪を引かれる思いで、少し振り返り手を振った。
駐車場を通り過ぎ、石畳を踏みしめる。すっかり暗くなった夜空に寂し気な三日月が浮かんでいる。視線を落とせば、プライベートプールがライトアップされ水面が幻想的に揺れていた。
5年前、あのプールに彼女が落ちて、助けようと飛び込んだはずなのに自分自身が抑え切れなくなり、貪るように求めてしまった。
それなのに彼女は優しく受け入れてくれた。
もしかして、あの時のに出来た子供では?
そんな、思いが過る。