裸足のシンデレラは御曹司を待っている

side 安里遙香


「遥香、先生送ってきたよ」

玄関がカラカラと開き、陽太の声が聞こえてくる。勝手知ったる何とやらの状態。田舎の特性で玄関に鍵など掛けていないからフリーだ。

「ありがとう、陽太。いろいろごめんね」

「いいって、城間別邸の客じゃ、俺も関係者なんだし」

そんなことを言っているけど、この前の私の話を聞いた後じゃ、いい気持ちはしていないはず。

「うん……ひとりじゃ運べないし助かった」

「それより、あいつ、シン見て何か言っていなかったか?」

ああ、やっぱり心配された。

「うん、大丈夫。普通に名前を聞いて、帰って行ったの。……なんか事故に遭って頭に怪我をしたらしくて、私の事すっかり忘れていたんだ。だからシン見てもなんとも思わないんだよ」

「そうか……」

きっと、色々言いたいことがあるはずなのに、それ以上の言葉を言わないのは、陽太の思いやりだと思う。
私だって、直哉が記憶喪失だなんて今日知ったばかり、頭の中が混乱したままで答えなど出せない。
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