裸足のシンデレラは御曹司を待っている
若かったと言えばそうなのかもしれない。

でも、若いからこそ打算も駆け引きもなく、本能に導かれるままに愛し合うことが出来た。

一生に一度の燃えるような恋だと思う。

何も言わなくても目を見れば気持ちが伝わり、重ねた肌の熱が愛を語った。
耳元に掛かる吐息で、頭の中まで蕩けてしまって何も考えられなくなってしまう。

優しいのに少し強引。
そして、寂しがり屋。

それは、彼の生い立ちが関係している。
直哉がポツリポツリと話してくれたのは、幼い頃に両親が離婚。父方に引き取られ、新しく出来た母親と半分血のつながった弟。そんな家族の中に自分の居場所が無かったそうだ。
それは、両親を失い天涯孤独となった私と寂しさの質が似ていたのかもしない。

「おはよう」とか「おやすみ」が言い合える何気ない日常、あたたかな『家族』が無いこと。

だから彼が「必ず迎えに来る」と言ってくれた言葉は軽いものでないと信じていた。
直哉と家族になれると思っていたから、「おはよう」とか「おやすみ」が言えるあたたかな家庭を直哉と作って行こうと思っていた。

それなのに、連絡が取れなくなり、妊娠がわかって、不安な気持ちで直哉に会うために羽田行きの飛行機に乗った。

沖縄で生まれ育った私にとって、東京の高い建物やたくさんの人、複雑な電車の乗り換え。どれもこれも慣れない事ばかりで、戸惑いながらやっとマンションにたどり着いた。

でも、マンションの入り口で、コンシェルジュの人にロボットのような作り笑顔で『柏木様は、ご不在でお繋ぎできません』と言われ、姿を見るどころか、部屋の前に行く事すら叶わずに『弄ばれて捨てられたんだ』と泣いて帰って来た。

その時期に直哉が事故で入院していたなんて知る由もなかったから……。

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