裸足のシンデレラは御曹司を待っている
車は名護市内を抜けて、許田に差し掛かる。左手に人気の道の駅が有り、右手は名護湾が一望だ。

海洋博が行われた当時(昭和50年頃)は、もっと海がきれいでココの湾にもイルカがたくさんいたとか地元のおじいから聞いた話を案内代わりにして、車は高速道路に乗る。

金武ICで降りて、一般道を10分も走るとお目当ての鍾乳洞にたどり着く。

緑に囲まれ、落ち着いた雰囲気の金武観音寺。その一角にある、鍾乳洞。ゴツゴツとした岩の割れ目をくぐり抜けると狭い下りの階段に差し掛かる。
 
「安里さん、大丈夫?」

目の前に手が差し出され、切れ長の優しい瞳が私を覗き込む。彼の手のひらに自分の手を重ねると熱が伝わり、気持ちがふわりと膨らみ始めた。
一段一段、階段を下りるたびに心臓の鼓動が早くなっていくのがわかる。

こんな、お姫様みたいに手を引いてもらったことなんてないから、ドキドキが止まんない。手汗かいていたら恥ずかしいし、困る。

自分の中で膨らむ気持ちに蓋をして、やっとの思いで階段を下りきり、手が離れるとホッとした。

鍾乳洞は長さ270m、地下30m、内部の気温が年間通して18度と一定に保たれていた。その自然条件を利用して、1万3000本を超える泡盛の1升瓶が静かに熟成の時をすごしている。

鍾乳洞の中を照らす仄かな明かりが岩肌を照らし、まるで胎内に抱かれているような幻想的な景色。その中で眠る泡盛の各瓶には思い思いのメッセージカードが掛かっていた。

「柏木様はラベルにどんなメッセージを入れますか?」

「5年後へのメッセージか……。想像もつかないな。穏やかに暮らせて美味しい食事と美味しいお酒があればいいかな」

何もかも持っているはずの直哉から出た言葉に少し驚いた。穏やかな暮らしを願うことは、今、穏やかでないのかもしれない。それに未来図の中に恋人や家族が出てこなかった。

この人は孤独で心が疲れて旅に来たのかもと思った。
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