裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「ママ」

「あ、起きた? おやつ食べる?」

空いたマグカップを手に台所に行き、流しにコトリと置いた。食器棚にしまってあるクッキーを取り出す。

「ママ、だっこ~」

ベッドの上から甘ったれた声がする。

「シンちゃんは、甘ったれさんだなぁ」

「へへっ」

きっと、こんな風にべったりママにくっついてくれる期間なんて、今のうちだけだ。小学校に入ったら、良い事も悪い事も覚えてお兄ちゃんになって行くんだろうな。

ずっしりと重くなった息子を抱き上げ、少しヨロヨロしながら台所の椅子に座った。

「シンちゃん重くなったなぁ。ママ、抱っこ出来なくなっちゃう。今度は、シンちゃんにママが抱っこしてもらおうかなぁ」

真哉は、びっくりしたように目をクリクリさせ、へろっと笑う。

「ママ、おデブさんだからシンちゃん、やだよ。つぶれちゃう」

あ、とんでもない理由で拒否られた。

「ひどいなぁ。ママ泣いちゃう。えーん」

わざとウソ泣きをして、手を目元に寄せ、チラリと様子を伺う。

「ママ、なかないで、ごめんね」

「うん、シンちゃんがごめんねしてくれたからママは泣かないよ」

こんなに可愛い時期は、きっと今しかないんだろうな。
直哉は、この可愛さを知らないままなんだ。

ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

「シンちゃん、誰か来たみたい。ちょっと降りてくれる?」

抱いていた、息子を下ろし返事をした。

「はーい、今、行きます」
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