裸足のシンデレラは御曹司を待っている
薄れていく意識の中、遥香の事を思っていたはずなのに、どうして今まで思い出せずにいたのだろう。

事故の後、病院のベッドの上で目が覚めたのは、事故から3週間も経っていた頃だった。左足は固定され、体中にたくさんのチューブに繋がれていて、口には酸素マスクをつけていた。

久しぶりに会った弟に「もう、目覚めないかと思った」と苦笑いされた。
そして、「なんで直線道路で事故なんか起こした?」と訊ねられた時に、その時の光景がまったくと言っていいほど思い出せない。そして、事故の前後の記憶がスッポリと抜け落ちている事を知る。

半分だけ血のつながった弟。子供の頃から希薄な家族関係。ここ数年は、仕事でしか顔を合わせてはいなかった。それでも家族として何度も病室に来てくれたのはありがたく思った。

事故の後、心は不安と喪失感に苛まれ、体は思うように動かす事が出来ずに苛立ちばかりを募らせた。

何か大切な物を置き忘れてしまったような気がしてならない。

出来る事なら失った記憶を取り戻したいと考え始め、その思いに囚われる。
それを希望と捉え、足のリハビリに励んだ。
何も掴まらずに自分の足で歩くことが出来るのが、幸運な出来事だと知った。

そして、ずっと探し続けていた失われた記憶。
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