裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「あの、冷めないうちに召し上がってください。私、お掃除してきます」

直哉の視線に落ち着かない気持ちになって、逃げるように浴室に駆け込んだ。
スポンジに洗剤を含ませ、水回りの清掃に取り掛かる。

なんで、あんな瞳で私の事を見たの?
まるで5年前に戻ったような、瞳の色に思えたから焦ってしまった。
もしかして……。
記憶の扉が開かれたのかも?
あー、それだったら、ちゃんと話を聞けばよかった。
ときめいている場合じゃなかった。私ったらバカだな。

フゥっと、一息ついて、窓の外を眺めると、背丈よりも高い月桃の大きな葉の間からは白い房状の可憐な花が咲き、その花を撫でるように心地よい風が吹いている。
期待と後悔を織り交ぜながら、いつもの手順で掃除を済ませ、キッチンに戻る。すると、食事を終えた直哉が私の方を向いた。

「今、コーヒーをお持ちしますね」

「話があるから、安里さんも一緒に飲んでくれるよね」

「はい、ご一緒させていただきます」

コーヒーメーカーで入れたコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置いた。
向かいの席に腰を下ろすと、直哉が私を見つめる。
その真剣な表情に緊張して、膝の上でギュッと手を握り込んでしまう。
そして、直哉がゆっくりと話し始めた。

「事故の時に頭を打って、記憶の一部が思い出せない話をしたよね。一昨日、遥香を車で轢きそうになった時にその記憶が戻ったんだ」

「えっ?」
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