裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「東京のマンションにも訪ねて行きました。でも、会えなかったんです。だから……私、遊ばれて捨てられたんだと思っていたんです」

そう、連絡が取れなくなって、不安な気持ちで東京に行った。たくさんの人、複雑な電車の乗り換え、やっとたどり着いた直哉のマンション。それは、見上げるほど高く、豪奢な大理石の立派なエントランス。恐る恐る足を踏み入れればコンシェルジュが作り笑顔で出迎える。もらった名刺を見ながら部屋番号と名前を告げても「お留守でございますので、お通しする事はできません」とそこから先に進む事も出来ずに泣きながら沖縄に帰って来た。

私の言葉に直哉は顔をゆがませ、グッと歯を噛みしめた後、苦しそうに言葉を吐きだした。

「……すまない」

「だって、事故だなんて知らなかったから……。もう二度と会う事も無いって、ずっと思っていました。正直、あなたの名前を予約表で見つけた時に戸惑いました。なぜ、あなたが城間別邸に来るのか不思議で仕方がなかったんです」

「遥香にしてみれば、自分を捨てた男が、5年も経ってのこのこ現れたんだ。戸惑うのも無理はない」

直哉は、小刻みに震えていた手を握り込み、瞼を伏せた。

「事故で記憶を失っているのを知って、自分が忘れられていた事はショックでした。でも、必死に記憶を取り戻そうとしてくれているのを見ました。城間別邸に予約を入れたのも記憶に引っ掛かったからなんですよね。そして、ここまで来てくれました。思い出してくれました。また、会えてよかった……。生きていてくれてよかった」

今ままで溜まっていた良い事も悪い事も吐きだした。胸がいっぱいになって、徐々に景色が歪み出し、頬に涙が伝う。

「ずっと、あなたに会いたかったんです……」
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