夢みる少女は、寂しがり詐欺師に騙されない。

私が朝食を食べてる横で

ウサギは売店から買って来たパンをかじってた



「病院の飯って
わりと美味そうなんだな…
それならオレも入院してもいいかも…」



「食べる?」



「いや、いらない
オマエの栄養、オレが奪ってどーすんだよ
いっぱい食べて早く退院しろよ!」



「うん…
私だって、早く退院したいよ」



「どーしたら退院できんの?
オレにできることない?」



「んー…私にも、わかんない

どーしたら、いんだろ

どーして、私だけ…
夏休みなのに…」



弱音を吐いてしまった



「ごめん…」



「なに謝ってんの?
別にウサギが悪いんじゃない」



「オレも医者じゃないから
わかんねーし…

代わってあげることもできなくて
ごめん…」



「大丈夫だよ
ウサギに何も求めてないから…」



「そっか…
ちょっと頼りにしてほしいな…
なんて思ったオレがバカだった」



「バカじゃないよ
ウサギ、ありがと」



「なんか、素直だな」



ウサギが私の結んだ毛先を触った



「ん?
ミチュだっけ?
ミチュみたい?
思い出す?」



「うん…思い出す
かわいかった」



そう言ってウサギは

私の頭を撫でた



優しい手

この手でいつもミチュを撫でてたんだね



恥ずかしくて

ウサギの方見れないや



顔を背けたら

ウサギは両手で

私の頭をおさえた



ウサギと目が合う



強制的に目を合わせられた



「ん?ウサギ?なに?」



無理



ドキドキする



目をそらしたくても

ウサギの両手におさえられてて

動けない



ドキドキが

限界



そう思った瞬間



ウサギが視界からいなくなって

ウサギの匂いに包まれた



Ꭲシャツを通して

ウサギの体温が伝わってくる



「毎日来てもいい?」



ウサギの心臓の音と一緒に

ウサギの声が聞こえる



「ん…ウサギが大変じゃなかったら…」



「毎日ユメカ大丈夫かな?って
ひとりで考えてる方がストレス

会ったら…声聞いたら…安心した」



「うん…
じゃあ、来てもいいよ」



状況がよく理解できない



ウサギの胸に抱かれて

頭を撫でられてる



私は

ミチュじゃないよ



でもウサギは

ユメカ…って

呼んだ気がした



いつもオマエとか呼ぶのに…



私もウサギの背中に手を伸ばした



広い背中



掌にウサギの温もりを感じる



「イッテー!背中触んな!
日焼けして痛いって
昨日電話で言ったよな?」



「あ、ごめん…」



「オマエ、なんか素直で調子くるう」



「ウサギが先に抱きしめたりするから…」



「抱きしめてなんかねーよ!
オマエ、勘違いすんな!」



「もぉ…!」



ウサギの背中をわざと触った



「イッテーな!
明日も来るから待ってろよ!」



うん

待ってるね



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