社長の渇愛
(あれ?痛くない……?)

心花が、恐る恐る目を開けると……
亜伊の大きな背中があった。


「あ…あ…しゃ、社長……!!?」
心花に当たる寸前に、石脇の手を掴んだ亜伊。


「あーーー!!!喉が渇く!!!」
亜伊の大きな通る声が、会場内に響いた。


「しゃ…長…」

「あ、亜伊…?」
亜伊のジャケットを掴み、少し引っ張る心花。
顔は全く見えないが、亜伊を包む雰囲気があまりにも恐ろしい。

「あ…心花…!!?」
バッと振り返った亜伊は、自身のジャケットを脱ぎ心花に羽織らせた。
そして頬を包み込んだ。

「大丈夫!!?」
「はい!大丈夫です!」
安心させるように微笑む、心花。

「すぐにシャワー浴びて、着替えなきゃ!!」
「あ、でも、まだパーティーが……」

「公私混同、大歓迎!」
「え?」
「言ったよね?俺の会社は、公私混同しまくり!
だから、行こ?」
心花の腰を支え、会場を出ようとする。

ドアを開ける寸前、亜伊が振り返った。

「あ!石脇、お前、クビな。
御笠、後は頼むね!」

「はい、かしこまりました」

「御笠さん!」
石脇が御笠に声をかける。

「あんた、バカだ!」

「え?」
「社長の信用を一瞬で、しかも自分で棒に振りやがって!!」
「頭に血が上って……」
「ガキかよ!!?
…………その手首…」
「え?」

見ると、先程亜伊に握られた手首は真っ青になって腫れていた。

「もうすぐで、骨折れてたな……それ」
「………」
「まぁ、自業自得だがな…
………つか!お前“ある意味”可哀想だな」

「え………」

「見せしめ」
黒滝が口を挟んできた。

「え……!!?」
「その通り。ここにいる人間全てに見せしめの為に使われた」
無表情で、石脇を見る御笠。

「君はね。
“俺の女に手を出したら、地獄に落とすよ”っていう見せしめにされたの。
たぶんボス、いい機会だと思ったんじゃないかな~?」
黒滝が、少し微笑み石脇に言った。

「そんな……」

「石脇さん、だから言ったじゃないですか!?
真田ちゃんのことは、社長本気みたいだから“絶対”いつものように手を出さない方がいいって!」
如月も黒滝の横に立ち、呆れたように言った。

「石脇さん、とりあえずもう来ていただかなくて結構です。今までお疲れ様でした」

御笠が丁寧に頭を下げた。
そして顔を上げ、鋭く睨み付け続けて言った。


「ちなみに、クビだけでは済まされませんので、覚悟しててくださいね」

「フッ!!怖っ(笑)」
黒滝が、噴き出し笑った。

< 32 / 38 >

この作品をシェア

pagetop