社長の渇愛
「どうしたらって、どうしたいんですか?」
ミネラルウォーターが入ったグラスをデスクに置きながら言う、御笠。

「心が、満たされない」

「……………満たされない?」
「あぁ…」

亜伊が“満たされない”なんて、一度もない。

欲しいモノは、全て手に入れてきた亜伊が満たされないと言っている。

「社長に満たされないなんてあるんですか?」

「心花を手に入れたい」

「そんなこと、簡単じゃないですか?
“いつものように”手に入れればいいのでは?」

「………」
「え?社長?」
亜伊が、ジッと御笠を見つめる。

「お前はわかってない」

「は?」

「いつもようにしても、身体しか手に入らない。
俺は、心花の“全て”が欲しい。
身体も、心も、未来も、真田 心花の全て……!」

「本気ですか?」
「あぁ」
「お言葉ですが……」
「は?」

「貴方に、相応しくない」

「で?」
「え?」

「相応しくない。
で?後は?」

「真田 心花を調べました。
“普通”の家庭です。
ここで働けるような器ではない。
それだけの頭脳も、精神力もない」

「そうだな。でもそれは、俺がカバーできる」
見据えて言う御笠に、亜伊も真っ直ぐ見て淡々と答える。

「真田 心花の為にも、手を退くべきでは?」

「………敬吾(けいご)(御笠の名前)」
スッと立ち上がった、亜伊。

亜伊が苗字ではなく、名前を呼ぶ。
これは、特別な意味がある━━━━━━

デスク越しにいる御笠にゆっくり歩み寄る。
亜伊の言葉にできない黒い雰囲気に、御笠はビクッと震え後ずさった。

亜伊の歩みに合わせて後ずさる、御笠。
ソファにふくらはぎが当たり、そのままソファに仰向けになる。

そして亜伊が、御笠を組み敷いた。
御笠の頬を撫でる。

「敬吾、嫉妬してるの?」

「え…/////そ、そんなことは……」
「大丈夫。俺はお前も大好きだよ?」
「あ、あの…しゃ、社長!!」

「敬吾も考えてよ。
どうすれば、心花が手に入る?」

「す、ストーカー!!」
「ん?」
「真田さんは、学生の頃ストーカー被害にあってたことがあるみたいなんです」
「あー、言ってたな」
「その男、まだ諦めてないようなんです」
「へぇー」
「そいつを利用すれば……」

「………フッ!!そうだな。いい考えじゃん!
さすが、敬吾だ!」
ゆっくり御笠から下りた、亜伊。

「はい。では、滞りなく進めます」
御笠が立ち上がり服を整えて頭を下げる。

「あ、あとさ!」
社長室を出ようとする御笠の背中に声かける。
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