【短編】今宵、君の腕の中
募る、不安
「寒くなってきたな…。」
夜の雑踏を一人で歩きながら呟いていた。
吐く息も白く変化し、星の無い夜の闇空に溶けていく。
秋から冬へと移り変わっていく今日この頃。
頬を撫でる風は冷たくて。
……まるで、私の心と同じくらい寒い。
「帰りたくない、な…。」
ふと過った思いが言葉として漏れたと同時に、私は歩みを止めてしまっていた。
午後8時。
きっと…、早く帰らないと後々面倒なんだけど。
……帰りたくない。
付き合ってもうすぐ4年の彼氏と半同棲生活。
……なんて、羨ましがられる状況も、今は苦痛だったりする。
それは―――
今でも1週間前に見た光景が、頭の中をグルグルとまわり続けてるから。
幼馴染みであり恋人の藍沢 隼(アイザワ シュン)が、
女の人と並んで歩いてる姿を、今日みたいな闇夜の雑踏で見てしまった、あの日…。