【短編】今宵、君の腕の中
視界の端に捉えた、私を置いてスタスタと歩いて行ってしまう隼の後ろ姿がジワリ…と滲んで。
初めて涙ぐんでることに気付くくらい、自分のことには無関心。
……私の全神経は、隼にしか向かっていないのに。
「……ほら、おいで?」
その場から動けずにいた私を救い出すかのように、大きな手が差し伸べられる。
それは大好きな隼のもので……、私を迎えに戻ってきてくれていた。
やっぱり表情は厳しいものだったけど、声色はとても優しくて……
奥底にまで落ちていた気持ちを浮上させるには、十分過ぎるほど効果覿面だった。