お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 こういうレストランでひとりで待っているのは、慣れていないからちょっと心細さを感じてしまう。

 しばらくして司さんがやってくると、なんだかほっとしてしまった。

「悪い、待たせた」

「いいえ、お疲れさまです」

 向いの席に座った彼に笑顔でそう言うと、彼も口もとを緩めた。

「仕事の方は大丈夫ですか?」

「今日は早く帰っても平気だよ」

 そうなんだ……。
 ならばどうして別々に来たんだろう?
 違和感が再び浮き上がってきてしまったけれど、まあいいか、と食事をはじめることにした。

 運ばれてくるコース料理はどれもとても美味しくて、司さんとの会話も弾む。

「そういえば、わたしの母が司さんから頂いたフルーツタルトが美味しくてとても喜んでいて、お店を教えてほしいって言っていました」

「そうか、気に入ってもらえてよかった。今度俺から連絡させてくれ」

「はい、ありがとうございます」

 先日、わたしの両親に司さんを紹介した。
 わざわざ彼が実家まで向かってくれて、祖母の家にも寄って挨拶をしてくれた。

 母に迷子の男の子の話を確認したときはお付き合いしていることを言っていなかったので、とても驚いていた。

『今度、涼本さんの奥様にも久しぶりにお会いしたいわ』と、母は笑顔で話していた。

 父は最初、司さんにどう接していいのか困っているような様子だったけど、帰る頃には自分から話しかけていたと思う。

 これでお互い両親に紹介するということができて、安心というかなんというか。
 誠実なお付き合いができている気がして、結婚を前提にという実感もわいてくる。
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