お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 入社した頃、社長の息子として周りから距離をとられ、『どうせお坊ちゃんだろう』と陰で言っていた年上の社員たちを見返すために仕事をしていた。

 生意気だと思われただろうし、企画が成功すれば妬まれることもあった。
 そういう負の感情は、同じ部署内にいれば言われなくても伝わってくる。

 いつのまにか周りには弱味を見せるわけにはいかないと考えるようになって、飲み会などの付き合いもほとんどせず、厳しくて冷たい男だと思われるようになり、周りから置かれた距離がさらに広がった。

 でも神坂だけは、そんなことを気にせず俺に意見をしてきて、ときに方向性が違えばとことん詰めて話し合う。

 そしてふたりで同じ企画を成功させて、一段落すれば『なんか食いに行こうぜ』と誘ってきて、一緒に食事をすることもある。

 フランクで陽気な性格の彼に、俺は気を許すことができていた。
 そうある程度彼と意見を交わすことの多い俺が、最近気になること。

「神坂、随分香菜のことを気にかけてくれるよな」

 必要な書類を神坂に共有し、パソコンのデータを保存しながらそう言うと、神坂は「うん?」とタブレットを見ながら声を出す。

「まあ、目につくからな」

「どうして?」

「勝手に悩んで面倒臭い……なんか放っておけないだろ」

 ほんの少し眉が動いたのを俺は見逃さない。じっと神坂の様子を窺うようにしていると、視線に気づいた彼がタブレットから目を離す。

「なんだよ? 嫉妬か?」

「それもある」

「ふうん? それなら、もし俺があの子のこと気に入っているって言ったら、お前はどう出る?」
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