お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「好きって思うのは、自由だよね!? たとえ連絡先が聞けなくても、見ているだけでも、本気で好きって思っていてもいいよね!?」

「香菜がそれでいいなら、いいけど。わたしは、好きになったら見ているだけじゃいられなくて、近づくチャンスが欲しいって思うかな」

 そう言ってお味噌汁をすすった紗子に、わたしは黙り込んでしまう。
 もうすでに見ているだけではなくて、話しかけてもらえたらとか、親しくなれたらとか、思っている。

 自分にもチャンスがあったら、なんて考えてしまうけど、きっとこの気持ちを伝えることはできないのだろうな。
 ちょっぴり切なさが込み上げてきて、エビフライを箸でつついた。

「でもさ、どうして急に涼本さんが気になりだしたの? 入社してすぐにかっこいいって話してはいたけど、今までそんなに話題にはしなかったよね?」

「えっ……いや、うん、この前涼本さんのことを見たらやっぱり素敵だなと……」

 ドキリとしながら答えると紗子は、ふうん?という顔でじっと見つめてくる。
 涼本さんを意識しはじめたきっかけは秘密のことだから、紗子には言えない。

 彼女の視線を感じて焦ったわたしは、急いで残りのご飯を食べ終えた。

 紗子と食堂で別れたあと、わたしの足はなんとなく第一会議室へと向かっていた。

 涼本さんの話をしていたら彼のことで頭がいっぱいになって、もしかしたらまた会議室で昼寝をしているかも……と、見に行ってみようと思った。
 自分の想いが叶うなんてことは、これから先ないかもしれない。でも、会えるチャンスをこうして求めにいくことくらいは、してもいいよね?

 そんなことを思いながら第一会議室にたどり着いた。涼本さんがこの前みたいに寝ているといいな、なんて、ドキドキしながらゆっくりとドアを開けたわたしは、足を踏み入れて硬直する。

 室内を見渡すと、この前と同じように椅子をつなげた上に男性が横になっていた。顔はまだ見えないから涼本さんとは言えないが、わたしはゆっくりと近づいていく。

 そばまで来て覗くように見ると、男性はやはり涼本さんだった。いるといいなと思っていたけど、本当に彼が寝ているなんて。
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