お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 ものすごい勢いで鼓動が高鳴って、その寝顔を見つめてしまう。
 頻繁にここで昼寝をしているのかな。家でも仕事をして、寝る暇がないのだろうか。

 大丈夫なのかな、涼本さん。
 無防備な寝顔を目の前に、そんなことを考えていた。

 そして手を動かそうとして、やめる。この前、髪を触るという申し訳ないことをしたばかりでしょう、と自分を戒めた。

 もう少し近くで見るのはいいかな?
 だって、会いたかったから。じっくり見られるときに彼のことを見ておきたい。数秒で離れるから、少しだけ。

 そう思いながら涼本さんのそばで屈んだとき、社員証をカーディガンの中にしまうのを忘れていて、ぶらりと紐が動き、彼の顔にあたってしまった。

 あ、まずい……。

「……ん?」

 慌てて社員証を引っ込めたけど、もう遅い。すぐに彼から離れるべきだったと焦っていると、薄っすらと開いた涼本さんの目がわたしに向いた。

「ご、ごめんなさい、あのっ……」

 胸もとで社員証を左手でぎゅっと握りながら、こうしてそばに寄っていることをなんて説明しようかと、必死で考える。
 寝ていたので近くで見つめようと思いました、と正直に言えるわけがない。

 どうしよう、なんて言い訳すればいいの?

 焦りがピークに達したとき、片肘をついて静かに上体を起こした涼本さんがわたしの方へ手を伸ばしてきた。
 目を細めた、とてつもなく色気のある表情で。

「わっ……!」

 小さく声をだしたわたしの肩に腕が回り、さらに体が沈むように強く引き寄せられる。体勢が辛くて椅子に手をついたら、わたしが涼本さんに覆いかぶさるような感じになってしまった。


 涼本さん、寝ぼけているの?
 片腕で抱きしめられているわたしの首に、彼の唇が触れているような気がして、全身が熱くなってきた。
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