お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「す、涼本さん、いつも会議室で昼寝をしているんですか?」

「……うん、まあ、結構」

 寝起きだからか、ゆったりとした反応をした涼本さんに、わたしはビクッと震える。
 首筋に彼の息がかかった。声が響いて、わたしの胸の鼓動はすごくて、もう、この状態に耐えられない。

「あ、あのっ」

「今夜、時間ある?」

 体が熱くてどうにかなってしまうと思ったとき、そっと離れた涼本さんがわたしと目を合わせて尋ねてきた。
 わたしは「え?」と聞き返しながら、彼を見つめる。

「君とふたりで食事がしたい」

 言われたことが信じられず、ぽかんとしてしまった。

 まだ寝ぼけているのかと思ったが、涼本さんの表情はすでにすっきりとしていて、わたしにまっすぐ視線を向けている。

 涼本さんがわたしと食事をしたいなんて、どうして急に? 突然の展開に頭がついていかず、返事ができないまま唖然としていると、彼は首をかたむけた。

「今日は都合が悪い?」

「あ、いいえ、大丈夫です……!」

 混乱している状態でどうしたらいいのかわからないまま、思わず大丈夫だと答えてしまった。

「そうか、よかった。十九時に会社を出る。一応、君の連絡先を教えてもらえるかな」

 これは、夢? それともドッキリ? こんなことがあっていいのだろうか。
 あの涼本さんにふたりで食事がしたいと言われ、連絡先を聞かれるなんて。

 ついさっき食堂で『連絡先とか聞けたらいいよね』と紗子に言われ、『そんなことできるわけがないよ!』と返していたのに。

 目の前にいるのは本当に涼本さんだよね? ……あたりまえか、こんなに整った容姿の人になりきるなんて無理だ。
 焦りながら、わたしは彼と連絡先を交換した。

「野山香菜さん、だっけ」

「は、はい」

夢なら夢でこのまま覚めるな、なんて思う。
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