お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 さらりと前髪を揺らし、スマートフォンをポケットへとしまった涼本さんのクールな目もとがわたしへ向いた。

「君にいろいろと聞きたいことがある」

 射抜くような視線に胸が大きく高鳴って、急激に鼓動が騒ぎだした。
 頬も赤くなってきて、自分の脈拍が全身に響いていく。涼本さんとこんな会話をすることになるなんて、想像もしなかった。

「それじゃ、勤務後に。そろそろ戻らないと午後の仕事に遅れるから」

「あっ……はい、そ、そうですね、戻りましょう!」

 涼本さんの聞きたいことって、なに? 急に抱きしめた理由も気になるのに、聞くタイミングが掴めなかった。

 会議室を出て別れたあと、足早に通路を進むわたしは彼との会話を思い出して、ドキドキしたり混乱したり、わけがわからなくなっていた。



 それから終了時間まで気持ちは落ち着かなかった。

 お昼の涼本さんとの会話は、現実? どうしても信じられなくて、でも自分の携帯には彼の連絡先がちゃんと登録されている。

 わたしなんかが相手にされるわけがないと思っていた人と、まさか食事をすることになるなんて。

『君にいろいろと聞きたいことがある』

 バレたくないと言っていた昼寝を、わたしが見てしまったから? わたしが誰かに言いふらさないか気にして、監視しようとしているのか。
 でも、昼寝ってそんなに重大なことなの?

 考えていたら、涼本さんに抱きしめられた瞬間が浮かんで、思わずうつむく。
 きっとあれは、寝ぼけていただけ。彼の言葉や行動に深い意味はないのかもしれない。
 うん、絶対そう。

 片思いなりの期待を持ってしまった自分をすぐに打ち消そうとしていたが、これをきっかけにもっと親しくなることができたら……くらいは、思ってもいいだろうか。
 だってまさかのチャンスなのだから。
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