お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 靴を脱ぎ、案内されて奥へと進んで広いリビングへと入る。

 黒を基調としたシンプルな部屋で、ソファとガラステーブル、テレビなど必要最低限の家具が置かれているすっきりとした空間だった。

「適当に座ってて」

 ソファに鞄を置き、スーツの上着を脱いで放るようにかけた涼本さんは、キッチンへ向かった。

 わたしはそわそわしながら、置かれた鞄から距離をとるようにして遠慮がちにソファの端へと腰かけた。

 涼本さんが住んでいる部屋。彼のプライベートな部分なのだと思うと、さらに落ち着かない気分になる。

「飲み物、お茶しかなかった」

「あ、ありがとうございます」

 彼がこの部屋で過ごしていることを考えていたわたしは、グラスに注いだお茶を持ってきてくれた彼の声にビクッと肩を揺らした。

 テーブルにグラスを置いた涼本さんは、そのままわたしのそばに立つ。

「変に気にしなくていい。俺も気にしないから。困って不安そうにしている君を放って帰るのは忍びなかったから泊めようと思っただけで、下心のようなものはないから安心してほしい」

 やだ、意識しているって思われてしまった?
 本人に伝わってしまうことは避けたかったのに。
 どうしよう、すごく恥ずかしい。

「風呂場はリビング出て右だから」

「わたしは、涼本さんの後でいいので……」

「わかった、俺が先に入る。適当にゆっくりしていて」

「は、はい」

 気にするなと言われても、気にしてしまう。

 涼本さんの態度はまったく変わらないのに、ぎこちない受け答えになってしまっていた。顔をまともに見ることができないまま、彼は鞄と上着を片付けてリビングを出ていく。
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