お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 これは、どういう状態?

 少々拭き方が雑で、彼が腕を動かすたびに変わるTシャツの皺を見つめながら、どんどん顔が熱くなってきてしまった。

 そんなわたしに気づいた涼本さんがピタリと動きを止めた。

「悪い、つい……なんか雰囲気? 拭いてやらないといけないって思った」

「ど、どうしてですか!」

 慌てるわたしからすっと視線を逸らして小さく笑った涼本さんは、「ほら、ドライヤー早くやってこいよ」と言って離れると、そのままキッチンへ歩いていった。

 つい髪を拭きたくなってしまう人間なのかな、わたし。

 それより、泊めてもらう身なのにベッドを使わせてもらうなんて申し訳ない。

 拭いてもらった髪を整え、ひたすら胸の鼓動に落ち着けと心の中で言いながら、もう一度洗面台へ行ってドライヤーで髪をしっかり乾かす。
 リビングへ戻ると、涼本さんはソファに座り、テレビをつけて缶ビールを飲んでいた。そんな彼に近づいたら、ゆっくりと視線がこちらに向いた。

「寝室は奥だから。どうぞ」

「そんな、寝られません! ……あ、いや、あの、泊めてもらうのにベッドなんてとんでもないですし、アパートのことも気になって眠れるのかもわからないので、涼本さんがベッドで寝てください」

 アパートのこともあるが、涼本さんを意識して眠れないかもしれない、という理由もある。
 とにかく遠慮するわたしを振り返った彼は、じっとなにかを考えるような視線をこちらに向けていた。

 なにか変なことを言ってしまった?
 考えていたとき、ふいに「くしゅん!」と小さなくしゃみが出てしまった。

「大丈夫か? さっき濡れたままでいたから」

「もう乾いているので平気です」

「……そうか。とりあえず、こっちに座って」

 そう言った涼本さんは手招きをしてきたが、わたしは後退ってしまう。

「涼本さんがベッドで寝るって言ってくれないと……」

「まだ眠れないんだ。君も、眠れるかわからないんだろ。それなら飲もう」

 立ち上がってキッチンの冷蔵庫から缶ビールを持ってきた涼本さんは、それをわたしに掲げるようにして見せてきた。彼の視線は、なんとなく気遣ってくれているように感じる。
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