お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 わたしも涼本さんの部屋で簡単には眠気なんてまだこないだろうし……。

「……それでは、いただきます」

 ぎこちない返事をしながら缶ビールを受け取ったわたしは、そのまま彼の隣に座った。

 こんなこと、数時間前は想像もしなかった。というか、食事に誘ってもらったことだって驚いていたのに。
 涼本さんも缶ビールを飲むんだ、なんて思ったとき、体に入っていた力が緩んだ。

 普段見ることのない彼の一面に、どこか親しみやすさを感じたわたしは、口もとまで緩んでしまった。

「なんだよ、ニヤニヤして」

「な、なんでもないです。涼本さんも缶ビール飲むんですね」

「父親が社長だから贅沢三昧しているように見えた?」

「いいえ、そういうわけでは……ただ、涼本さんは特別な次元の存在で、一般的なことが当てはまらないようなイメージがあって」

 そこまで言うと、涼本さんは噴き出すように笑った。

「特別な次元って、恐ろしいな。俺は普通の人間だよ。期待を裏切ったかな」

「思っていたイメージ通りだったら、わたしは今以上に緊張して話せていないかもしれないので、少しほっとしています」

 わたし、素直に話しすぎてしまったかな。
 失礼だったかもしれない、と気にしていると涼本さんはふっと口もとを緩めて、優しい表情になった。

 穏やかな彼の目に、不安は消える。

「いつも眠くなるまでお酒を飲んでいるんですか?」

「寝付けないとき、たまに。今日は君がいるから飲もうかなって」

 わたしからテレビに視線を移しながら答えた涼本さんに、やはりいろいろと気を遣わせてしまっているのだろうなと、申し訳ない気持ちになった。

 こうして親切にしてもらったのだから、涼本さんが眠くなるまで話し相手ぐらいにはなりたい。
 そう思ったわたしは、開けた缶ビールをゴクゴクと飲んだ。
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