お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 起きませんようにと慎重に離れようとしたのに……ギュッと握る手に力が入って、驚いたわたしはピタリと動きを止めた。

 起きてしまった!?

「ん……?」

 少しだけ眉を寄せながら、涼本さんが目を開ける。
 しばらくわたしのことをぼうっと見ていたが、はっとしたように上体を起こすと同時にわたしの手を離した。

「朝……?」

「は、はい、おはようございます。わたしもここで眠ってしまいました」

 気恥ずかしさを感じながらわたしがそう言うと、涼本さんは視線を自分の手もとへと向けてなにかを考えている様子だった。

「……君のおかげかな」

「はい?」

「なんだかほっとして、気分良かった。目覚めもいいし」

 納得したようにそう言った彼は、顔を上げてじっとこちらを見てくる。
 わたしはただ、涼本さんの寝顔を見ていてそのまま眠ってしまっただけで、とくになにかをしたわけではない。

 寝る前にお酒を飲んで会話をしたことがリラックスすることに繋がったとか? 
 よくわからないけれど、涼本さんのためになったのならよかったと心の中で思っていると、急に彼がわたしの顔を覗くように見てきて、ドキッとする。

 なんだか真剣な表情をしているけど、どうしたのだろうか。

「君はこれから、住む場所はどうする?」

「まだ決めていません。この辺りに住んでいる友達は少ないし、とりあえず数日はホテルとか……」

「それなら、ここに住むというのはどう?」

 片手でわたしの肩を掴んでそう言った涼本さんに、え?と聞き返す。
 ここに住むって、それは……。

「家賃や光熱費などはいらないから」

「ちょっと待ってください、あのっ」

「君が一緒に住んでくれたら、俺にとっていい気がして。他人と一緒にいるのは落ち着かないと思っていたけど、君は違うかもしれない。だから……この部屋に住むのはどうだ?」

 涼本さんの声色に冗談っぽさはなく、本気で言っているように感じる。
 寝る前のちょっとした会話とか、一緒にお酒を飲んで笑い合うとか、そういうことが彼にとって多少の息抜きになってくれたのならうれしい。

 でもそれは別にわたしではなくても……。
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