お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 わたしは目をぱっちりと開けたまま彼を見つめて、頭の中で話の流れを整理してみたが、なんて返事をすればいいのかわからなかった。

 他人と一緒にいるのは落ち着かないけど、わたしなら平気かもしれないのかな……。でもそこまで彼が思うのはどうしてなのか。

 わたしに特別ななにかがあるとは思えない。ただ、涼本さんが気になると言っていた香水を使っているというだけで、昨日シャワーを浴びてからは匂いはしない。

 彼は社長子息で、わたしとはまったく立場の違う人。
 迷惑をかけるわけにはいかない。

 混乱して黙ったままでいると、はっとしたような顔をした涼本さんはわたしの肩から手を離した。

「……悪い、いきなり。住むというのはさすがに無理だよな」

 がっかりしたような顔をされてしまうと、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

 どうしよう、涼本さんの提案は自分にとって悪いものではない。しばらくホテルに泊まったら、給料日前に痛い出費をすることになる。

 けれど、図々しくこの部屋に住まわせてもらっていいのだろうか?
 ますます混乱してしまう。しかしこのままなにも言わないでいたらダメだと思ったわたしは口を開いた。

「ご、ご迷惑でなければ、ここにいてもいいですか?」

 ああ、わたしったらなにを言っているのだろう。でも、助かるのは事実。

「俺は君に住んで欲しいと思っているから、迷惑ではない。部屋のものも、自由に使ってくれていいし」

 勢いで決めてしまっていいのかと迷うところもあって、やはり図々しいかなと思いはじめたとき、涼本さんがふっと微笑んだ。

 彼の表情に優しさを感じて胸がぽうっとなったわたしは、お世話になってしまおうと、ドキドキしながら決断した。

「それでは、あの、一週間よろしくお願いします!」

「一週間でいいのか?」

「はい、とりあえず……」

 長くお世話になるのはいくら迷惑ではないと言われても気にしてしまう。わたしは涼本さんと特別な関係があるわけではない。
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