お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「すみません、ひとり暮らしでなるべく自炊を心がけてきましたが、得意な料理と言えるものがないんです」

 休日の間は、途中だったアパートの片付けをして当分必要なものをこちらに運び、この辺りのスーパーやコンビニ、駅までの道を涼本さんに案内してもらったので、外食やテイクアウトしたものを食べていた。

 こういうことはボロが出てしまう前に伝えておいたほうがいい。
 気恥ずかしさと情けなさを感じながら正直に話すと、彼は口もとを緩めていた。

「俺は君に家政婦のようなことをさせたいわけじゃない。言ったよな、気を遣わなくていいって。君も仕事をしているのだから、疲れて面倒なときはなにもしなくていいよ」

 そう言ってもらえても、申し訳ない気持ちが拭えないでいると、涼本さんはじっとわたしを見てきた。

「仕事が終わったら一緒に……いや、会社に行かないと何時になるかわからないな。悪い、忘れてくれ」

 彼はすっと目を逸らしてしまった。

 一緒に、なんだろう? 買い物かな、それとも部屋の掃除かな、と考えることができる自分がとても贅沢に思う。

 違っていたら恥ずかしいので、余計な期待はすぐに打ち消した。

「平日の朝ご飯は適当ですがいつも食べているので、一週間涼本さんのぶんも作らせてください。これはついでです」

 これくらいなら涼本さんも気を遣わないだろう。
 彼は再びこちらを見て「ああ」と小さく笑った。

 少しほっとしたわたしはキッチンへ向かい、朝食を作り始めた。
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