お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
「そうだ、これ」

 部屋の鍵を閉めた涼本さんが思い出したように振り向き、ポケットからもうひとつ鍵を取り出してわたしに差し出した。

「スペアがあった。預けておく」

「……いいんですか?」

「帰宅時間が合わないだろうから、持っていたほうがいい」

 受け取った鍵を見つめて、こんなに面倒を見てもらっていいのかなと考える。

 今後のことを早く決めて、それから涼本さんがしっかりと体を休めることができるように、どうにか力にならなければ。

 そう思いながら再び「ありがとうございます」と言って頭を下げた。



 マンションの駐車場で涼本さんの車に乗り込み、運転している彼の横顔を気にしていたら、あっという間に駅へとたどり着いていた。

 お礼を言って彼の車を降りたわたしは、そのまま駅に向かって改札を通り、電車に乗り込んだ。

 会社の最寄り駅までたった二駅。電車を降りた後は、普段通り出社した。
 住んでいたアパートから新しい部屋に引っ越すというのも、考えてみてもいいかもしれない……。部屋が水浸しになって、ちょっと嫌な思いを引きずってしまいそうな気がするから。

 そうなると契約の問題もあるし……どうしようか悩んでしまう。
 涼本さんの部屋にお世話になっている間に大家さんと話をしてみて考えないと。

「えっ、野山さんの住んでいるアパート水漏れしたの?」

「そうなんです。週末、いろいろ大変でした」

 休憩スペースでちょうど一緒になった同僚の女性数人に、アパートの件を話す。

 皆は「大変だね」と、気の毒そうにわたしを見ていた。同情の目を向けられても、誰かに話を聞いてもらうと自分の中の焦りが少しやわらぐような気がする。
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