お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 今まで朝ご飯のときはすぐ調理が済むからと、身につけていなかったし。
 居た堪れなくなりながら、わたしは火を止める。

「えっと、このエプロンは小さい頃祖母が作ってくれたデザインのものを大学生のときにもう一度……くまの部分も、祖母がフェルトで手作りしてくれたんです。子どもの頃から気に入っていたから、作り直してもらったのを今でも使っていて。他にも上履き入れや手提げもくまをつけてもらっていたんですけど」

 説明なんてしてどうするんだろう、と自分で思いながらも口は動いてしまう。
 すると、涼本さんが優しく微笑んだ。

「やはりそうか。おばあさんの作ってくれたものを大切にしているんだな」

「は、はい」

 ……やはりそうかって、なんだろう。
 わたし、おばあちゃんのことを涼本さんにはじめて話したよね?

 なんとなく引っかかりながらも、急ごうと思って調理に集中することにした。
 しばらくして完成した野菜炒めとお味噌汁、冷奴とサラダをテーブルに運んだ。

 ご飯と箸は涼本さんが用意してくれて、ダイニングテーブルに着いたわたしたちは、「いただきます」と言って食べはじめる。

 味はどうだろう? 見た目は大丈夫そうだけど……。
 まずお味噌汁を飲み、野菜炒めに箸を持っていった涼本さんをじっと見つめてしまった。

「どうですか?」

「美味い」

「よかったです! 次は炒飯を……」

〝作ります〟と言おうとしたけれど、途中で言葉を止めた。
 お世話になるのは今週だけ。自分が料理を作る機会はあるかなって考えたら、次なんて言わないほうがいいと感じた。
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