お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
『まだ決めてないんだ』

 正直に返信すると、紗子から着信が入った。
 涼本さんはお風呂なのでまだ戻って来ないだろうと思い、わたしは電話に出る。

『ごめんね、急に。電話大丈夫?』

「うん、大丈夫だよ」

『この前話してから、気になってて。アパートどうするのか、迷っているのならやっぱりうちに来なよ』

 紗子の優しさに、胸が温かくなる。あれからずっと気にかけてくれていたのかな。

「ありがとう、紗子……なんか、紗子の声聞いてたらほっとした」

『えっ!? なにか不安になるようなことがあったの?』

「いや、不安じゃなくて……」

 わたしは短く息をついて、心にある消化しきれない想いを紗子に話した。

「あのね、こんなこと思うのってとても図々しいってわかっているんだけど……もう少し、涼本さんと一緒にいたいなって思っちゃった。お世話になっているのに、迷惑だってわかっているのに、この数日間が夢みたいで、もっと続いたらいいのになって。考えたら、寂しい気持ちになっちゃった」

 一日過ごすごとに〝もっと〟って思ってしまう自分がいた。だけど、口に出すことはできなくて。

『そう思うのは普通じゃない? だって、香菜にとって涼本さんは気になる人だもん。もっと一緒にいられたらいいなって思うのは、自然なことじゃない?』

「で、でも、それでもっとお世話になろうなんて思ってないから! ちゃんと約束通り、一週間で部屋を出るつもりだからね!?」

『あはは、香菜って真面目だよね』

 真面目かな? 紗子の明るい声を聞きながら心にずっと溜まっていたものを聞いてもらったら、なんとなくすっきりした。

『それじゃ、また連絡するね。わたしの部屋はいつでも来ていいんだからね!』

「うん、本当にありがとう」

 話を終えた後、最後にもう一度お礼を言って紗子との電話を切った。
 そして、ふう、と息をついたとき。リビングのドアが開いたので、ドキリとしながらわたしは振り返った。
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