お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 わたしよりも大きくて、お兄ちゃんみたいだなって思っていた気がする。
 なんとなく断片的ではあるが〝男の子〟の存在を思い出すけれど、その記憶の中ではっきりと顔を見ることはできない。

 幼い頃の出来事だから曖昧すぎて涼本さんの話に難しい顔をしていると、彼は小さく笑った。

「君のくまのエプロンを見た後、俺の母に迷子になったときの話を尋ねた。母もよく覚えていたよ。当時の女の子の母親の名字が〝野山〟っていうのを確認してやはり君があのときの女の子だと確信した。偶然ってすごいなと思ったよ。でも君は気づいていないというか、覚えてなさそうだったから黙っていたけど」

「今、涼本さんの話を聞いて少しずつ思い出すんですけど……わたしは記憶が曖昧で……すみません、今度母に聞いてみます」

 涼本さんの話が本当にわたしなら、彼とは昔会ったことがあったということになる。
 そうだとしたら、勤め先で再会することができるなんて運命的だと感じてしまう。

 幼い頃、出会っていた。
 そう思うとなんだか胸の奥が熱くなってきて、隣にいる涼本さんに惹かれている想いがどんどん溢れていくように思う。

 運命かもしれないなんて、おこがましいというのはわかっている。
 それでも好きっていう気持ちは簡単には抑えられなくて。

「涼本さん……」

 呟くように呼ぶと、彼は首を傾けてわたしを見つめる。
 この想いを口にしたってどうにもならないって思ってきた。募る想いは秘めたままにしたほうが、傷つかないと。

 わたしが涼本さんに感じていたやさしさは、幼い頃の出会いがあったからこそのものなのかもしれない。
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