もどかしいくらいがちょうどいい
「涼森さんって、成瀬くんに何かしたの?」
一日中、背中に穴空くほど浴び続けた冷凍ビームからようやく逃れ、放課後。
図書館で返却された本を戻す作業をしていると、他の棚の整理を終えた夏目くんやってきて、私を見上げながら開口一番そう言った。
脚立に乗って最上段に本を戻そうとしていた手を止め、私は喉まで出かけた言葉を飲み込み、拳を握りしめた。
そんなの……そんなのっ、私が一番知りてえよ!! なんでだよ!! 私が何をしたんだよ!! なんで私、今にも殺しそうな目で睨まれてんの!?
ぷるぷる肩を震わせながら何も言えない私を横目に、ワゴンに乗せられた本を手に取り淡々と戻しながら、もしかして、と夏目くんが続ける。
「恨み買うようなことした?」
「っ、してないよ!!!」
「しー」
人差し指を唇に押し当てた夏目くんは、その所作すら様になっている。
「あっ……、ごごごめんなさい」
慌てて自分の口を塞ぐと、夏目くんはくすくす小さく笑って、冗談交じりに言った。
「もしかして、成瀬くんさ。……涼森さんに気があったりして」
「……それは、殺す算段を立ててるって意味で?」
「違う違う」
かぶりを振って、夏目くんは私に本を差し出しながら、言った。
「好きって意味で」
悪意の感じられない爽やかな満面の笑みで、さらりと。
私はその本を受け取りながら、あはは、と乾いた笑いで返す。そして、矢継ぎ早に言った。
「それだけは絶っ対にないと思う」
*
夏目くんと図書委員をやることになったのは本当に偶然だ。
夏目くんと少しでもお近づきになりたい女子たちによる争奪戦で、私の席まで囲まれるレベルで女子たちが群がって一様に夏目くんを誘うイベントが発生し、1時間以内に委員会決めが終わらないと判断した先生が、くじ引きで決めようと言い出したのがきっかけ。
私の席は窓側一列目の後ろから2番目だから、廊下側から回されたくじ箱は私が引くころには残り2枚になっていた。
そしてそれがたまたま、夏目くんと同じ図書委員と書かれた紙だった。
私のくじ運すごない? お正月に引くおみくじいつも凶か大凶しか当たらないのに。ガチャ運もクッソ悪いのに。
クラスの女子たちから恨めしいと言いたげな視線と、ついでに後ろからも冷酷な視線を浴びながら、私は夏目くんと図書委員をすることが決まったのだった。
そして、本日はその委員会活動中というわけである。