もどかしいくらいがちょうどいい
瑞月は注文したガトーショコラから視線を上げ、それで? と、催促するように首を傾げた。
「相談があるんでしょう?」
「えっと……その、これは、あくまで……そう、親戚、親戚のお姉ちゃんの話なんだけど!」
「親戚の、ね」
「そのぉ、学生時代に好きじゃないひとに間違えて告白しちゃって。で、そのままずるずる告白を訂正しないまま付き合いが続いて、気が付いたらその人と──けっ、結婚してたらしくて! お姉ちゃん的にはその、どうにか穏便に別れたいみたいなんだけどっ、瑞月だったら、どうする!?」
一息で言い切ったせいで、苦しくなってぜーはーぜーは、と肩が上下する。
そんな私をぽかん、と見上げていた瑞月が眉に皺を寄せた。
「アンタ、成瀬善にプロポーズでもされたの?」
「プッ!? ロポーズはされてないから! ……はっ、いや違うよ!? 私の話じゃなくって! 親戚の! 親戚の! お姉ちゃんの話で! っていうか、なんでそこで成瀬くんの話が出てくるの!?」
「だって、成瀬善と付き合ってるんでしょ?」
「なっ」
絶句。言葉が出なくて、私は固まる。
「なんでそれをッ!!!!???」
「うるさ」
思わず立ち上がる私を一瞥して、瑞月は軽くため息をついた。
「学年中もっぱらの噂よ。アンタと成瀬善が一緒に帰ってるの目撃した人もいるって」
「……そ、そんな……」
金曜日のあの出来事から、まだ3日しか経ってないのに!?
瑞月のクラスはA組。私はE組だ。
そんな離れたクラスまでものの3日で噂が届くくらいだから、私の前の席の夏目くんには秒で伝わっているはず……。
だから今朝、クラスのみんなが妙によそよそしくしてたのか……。