もどかしいくらいがちょうどいい

 キンコーンカンコーン、と遠くの方で鐘の鳴る音。
 下校する学生たちの賑やかな声が開けた窓から風に乗って聞こえる。

 夕陽の燃えるような日の光が、成瀬くんの黒髪を染めていた。
 伏せていた瞳が、私の足音に気付いてゆっくりとこちらを振り向いた。黒色の双眸が差し込んだ赤色と混じって輝いている。


「ご、ごめんね! 時間作ってくれてありがとう、成瀬くん」

「別に。それで、何?」


 向き直った成瀬くんが窓枠に背を預けながら、緩く笑う。

 今から私が口にするであろう言葉なぞ、全く欠片も想像していない成瀬くんなりの笑顔。

 私はたまらず胸を押さえた。


「うぐっ……」

「……大丈夫か?」

「いや、だ、大丈夫……」


 罪悪感が、罪悪感がスンゴイ! 
 すでに押しつぶされそうよ!? 
 
 でもここで逃げたらだめだ、覚悟を決めろ涼森麦乃!!!!

 だって、このまま放置したら私は! 
 私は未来で逮捕されるかもしれないのだから。


「な、成瀬くん!!!」

「……うん」

「今日はすごく……大切な話があって……! あのっ、その……、」


 すうっと胸いっぱいに息を吸い込んで、すべてを吐き出す勢いで私は声を出した。



「わ、私と別れてほしいの!!」


 いっ……た! 言った! 
 何とか言い切った私!! 成瀬くんの反応は!?

 私はすぐさま目の前に立つ成瀬くんの顔を見上げた。

 そして──

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