もどかしいくらいがちょうどいい
──ぴぴぴ、ぴぴぴ。
無機質な音がすぐそばで鳴っていた。
深い海の底まで沈んで包まれるような心地のよさから覚まされるのが嫌で、私はきゅうっと目をつむったまま手を伸ばして音の行く先を辿る。
時計らしきものが小指にあたった。
何度か手のひらで上の方を叩くと、発信音が止まる。
……これで……、もうちょっと、眠れ……る……むにゃむにゃ…………って、寝てる場合じゃねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!
がばっと、私は勢いよく飛び起きた。
唐突に起き上がったせいか、不規則に心臓が飛び跳ねて頭がぐらぐらする。
……ううん、それだけじゃない。
ジェットコースターで高所から落ちたときみたいな浮遊感もある。
この感覚を、私は知っている。……ということは、も、もしかして……。
まず私の視界に映ったのは、白いシーツ。
横にずらすと、少し開いた窓から夜風が吹き込んでカーテンが揺れている。
そして、次に映ったのは──
「…………2032年……」
さっき私が止めたであろう、置時計の表示を見て理解する。
間違いない、ここは──10年後の未来だ。
あの最悪な状況からいきなりタイムリープしたのかは、全然分からないけど……。
「ってか、ここどこだ……」
前回は起き抜けに大人バージョンの成瀬くんとベッドインしてるとかいうドッキリ紛いな展開だったけれど、今回は隣に成瀬くんの姿はない。
どうやら、私一人で寝ていたらしい。
それに、前回の未来で見た寝室とは違う部屋だ。
「……はああ~~~~……」
もう色々ありすぎて頭がパンクしそう。
次から次へと畳みかけるように展開が盛りだくさん過ぎて、飲み込むには時間が必要だ。
額を手で押さえて大きく息を吐いた──と、そのとき。
私は気づいた。
「……あ、」
額に押し付けた左手に、指輪がないことに。
え、え、えええ……?
ということは……、あの後、私は成瀬くんと別れられたということ……?
えっ……あの状況で!?
ハイライト失った成瀬くんに詰め寄られてどうやって逃げたん!?
なんでなのか全っ然分かんないけど、でも……、ということは……!?
「犯罪者ルート回避~~~~!! ヤッタ~~~~~!!」
天井に向かって高く拳を突き上げて私は声をあげる。と、少し遅れてぐうううっと、お腹の虫が鳴った。
あ~~~~安心したらお腹空いてきた!
冷蔵庫とか探れば何か食べ物あるかな? 流石に図々しすぎ?
まっ、ここ私の家だし勝手に食べても誰も怒んないでしょ、あっはっはっは!
そうして、意気揚々とベットから降りようと床に足をつけたその時──かちゃり、と音がした。具体的に言うと、私の足元から。
何気なく視線を落とし、私は何度か瞬きを繰す。
それから、うん、と軽く頷いた。
端的に言おう。
足枷ついてた。左足に。