もどかしいくらいがちょうどいい
まずもって、この状況を整理しよう。
一、ここは10年後の未来。
ニ、タイムリープするトリガーは不明。
三、おそらく16歳の私の行動によって未来が変わる。
四、現在私は何者かによって拉致監禁されている。
「何でだァーーーー!?!?!?!?!?!?」
私は思いっきり頭をかき回す。
何故!? どうしてそうなった!?!?
犯罪者ルートを回避した代わりに今度は私が監禁の被害者になっとるやんけーーー!!!
どどどどうしよう、どうしよう!?!?
逃げ、逃げないと……駄目だこの足枷びっくりするくらい足首にフィットしてやがるっ、外せる気が全くせん!!
落ち着け落ち着け、よく考えろ麦乃!
ヤンデレゲーでもよくあるシチュじゃん!!
だとするなら、ゲームの最初は大概、決まっている。
例えば、起きたら監禁されてた主人公が混乱している間に、後ろから人影が現れる──とか。
などと考えていると、余りにも見計らったタイミングで、どん、と唐突にドアが開く音がした。
「──っ、むぎ!」
私の肩が大きく跳ねた。
間違いなく、聞き覚えのある低い声だ。
私は、恐る恐る後ろを振り返る。
「……成瀬、くん……」
スーツに身を包んだ大人バージョンの成瀬くんが、立っていた。
成瀬くんは私の姿をその視界にとらえると、今にも泣きだしそうな顔で駆け寄ってくる。
「え、え……な、成瀬くん……!? ぐえっ」
ベットの上にちょこんと正座する私を押し倒さん勢いで、成瀬くんが抱き着いてきた。
私よりも一回りも二回りもでかい図体で、手加減なく。まるで獲物を絞め殺すアナコンダだ。
あ、やばいやばいガチで死ぬ……! 背骨が逝く!
「……い、痛い、痛い! 落ち着いて、成瀬く、」
「っ、心配、した」
「え?」
耳元で囁く声は、弱弱しい。
締め付けられる痛さで気が付かなかったけど、肩も小刻みに震えていた。
あれっ?
成瀬くん、ひょっとして……私を助けに来てくれたパターンでは!?
ヤンデレゲーにおける脱出イベで助けに来てくれるヒーローなんじゃ……!?
少し落ち着いたのだろう、成瀬くんは私の首筋に埋めていた顔を緩く起き上がらせた。
セットの乱れた黒髪がはらりと、目の上にかかる。
瞳の中にいっぱい涙を溜めた成瀬くんは、私の存在を確かめるように頬を優しく撫でた。
私はごくりと生唾を飲み込む。
そうして、成瀬くんは口を開いた。
「また、俺から逃げたのかと思った」
やっぱお前かーーーーーーーーーーい!!!!