卒業前の屋上、セーラー服で先生と……
あれは、去年の夏頃だったか。
今のような放課後、模試の成績が振るわず、桃香は一人になりたくなった。たまたま屋上に向かった彼女は、煙草を吸っている結人と遭遇した。
真面目な印象が強かった結人先生の意外な素顔に、彼女は大層驚いた。
彼は煙草の火を地面で消しながら、驚いて涙が引いてしまった彼女に話しかけた。
「お前にしては、今日返ってきた模試の結果、悪かったな」
そう言われて、彼女の胸の内が重たくなる。
また瞳が潤んできた。
すると――。
桃香の頭に、結人先生が手を置いた。
「まあ、たまには良いんじゃないか? いつでも何でも出来るばっかりじゃ、人生つまんないぞ」
そう言って、彼に頭を撫でられた。
桃香の心臓が、一度だけ大きく跳ねる。
「なあ町田、お前が泣いてたの内緒にしといてやるからさ。俺のことも黙っててくれるか?」
特に彼を貶めたいなどと思っていなかった桃香は、その願いを黙って聞き入れた。
「先生はいつも、屋上にいらっしゃるんですか?」
「ああ、大体ここで時間つぶしてるが」
結人先生の答えに、桃香はさらに問いかけた。
「だったら、また遊びに来ても良いですか? 先生の秘密を内緒にする代わりに……」
「は? まあ、別に良いけど……」
それ以来、二人は秘密を共有する仲になった。
部活を引退し、受験勉強を残すのみだった桃香。
彼女は放課後になると、屋上にいる結人先生に会いに行くのが習慣になったのだった。